教育データベース

2018.11.09

小学校

国語

新潟

平成30年度

多角的・多面的に読む力を高める文学教材の授業づくり

新潟市立内野小学校 渡邉 裕矢

 新学習指導要領改訂の方向性の一つである「思考力・判断力・表現力等」について、「これからの子供たちには、創造的・論理的思考を高めるために『情報を多角的・多面的に精査し構造化する力』がこれまで以上に必要とされる」と述べられている。そして、「情報を多角的・多面的に精査し構造化する力」は、「既有知識・経験によってテクストにない内容を補足・精緻化するなどして推論する力」と説明されている。これらのことから、叙述や既習事項などの情報を整理し、関連付けていくことで多角的・多面的に読む力を高めていくことができるのではないかと考えた。
 そこで、私が着目したのが、東京大学CoREFが提唱する「知識構成型ジグソー法」である。立場の異なる視点をもった者同士が考えを交流することで、叙述を関連させながら読みを深めていくことができると考えた。また、佐藤佐敏(2017)は、物語を分析する観点として、「対役が、中心人物(主人公)にどういった影響を与えたかということを考えると作品に流れる一つのメッセージが見えてくる」と対役と中心人物の関係について読んでいくことが大切であると述べている。
 以上をふまえ、本研究では、文学教材の授業において「登場人物の立場別の知識構成型ジグソー的手法」を取り入れた読解指導を試みることとし、次の2つの手だてを講じて実践を行った。
(1)「知識構成型ジグソー的手法」で、複数の登場人物の立場から読みを交流する活動の組織
 複数の登場人物の立場から読みを交流する「知識構成型ジグソー的手法」を組織した。子どもたちは、様々な登場人物の立場から根拠となる叙述を読み取り、それらを交流することによって中心人物の心情の変化の理由を数多く見つけ出すことができた。しかし、グループ交流がただの意見交換で終わってしまい、読みの深まらない子どもたちもいたという課題が浮かび上がった。
(2)多角的・多面的に読む力を高めるための発問の工夫
 上述の課題を受け、それぞれの立場で読みを交流した状況で追加発問を投げかけ、話し合っていく活動を組織した。「中心人物が変化したことに最も影響を与えたのは誰か。」という発問を投げかけ、最も影響が大きいと考えた立場同士でジグソーグループを作り、叙述を根拠として読み取ったことをもとに全体交流を行った。すると、自分が考えつかなかった立場からの意見を取り入れ、新しい読みの気付きを生み出す子どもたちが数多くいた。影響度のレーダーチャートを作り、全体交流の前後で比較すると、数値が変化し新しい読みの気付きを生み出した子どもは88.9%であった。このことから、影響度についての発問をし、ジグソーグループを作って話し合ったことは多角的・多面的に読む力を高めるうえで有効であったと捉える。
 様々な登場人物の立場で読みを交流することにより、多くの叙述を関連させて新しい解釈を導き出し、読みを深めていくことができた。しかし、この手法を学習に取り入れていくためには、物語の設定の条件などが必要となってくる。どんな教材文でこの手法を生かしていくことができるのか、どんな発問をすると子どもたちの考えを深めていくことができるのかを、これからも研究していきたい。

〈参考文献〉
「国語ワーキンググループにおける取りまとめ」文部科学省 2016.8
「協調学習 授業デザインハンドブック 第2版」東京大学CoREF 2017.3
「国語科授業を変えるアクティブ・リーディング」佐藤佐敏 明治図書 2017.9